論文部門褒賞

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第39回 平成29年度(2017年)

論文表題:ライドシェアリングは都市と移動の再構成をもたらすのか-シェアリングはクラウド・モビリティの夢を見る-
IATSS Review Vol.42 No.1 掲載(PDF 1.13MB)

受賞者:佐々木 邦明

受賞理由:

 この論説は、今後の都市・地域交通におけるライドシェアリングの可能性について論じたものです。構成は、近年シェアリングエコノミーの一翼として話題となっているライドシェアリングの定義とこれまでの取組みを確認し、筆者自身が総務省の戦略的情報通信研究開発推進事業の支援を受けて実施した社会実験から得られた教訓をもとに、ライドシェアリングを普及していく際の課題と展望をまとめたものとなっています。
 親族・友人等の日常生活でのつながりのある人々の家に宿泊したり車に乗せてもらったりすること自体は目新しくはありませんが、これを、使われていない資源と利用したい人をマッチングするICTの普及を背景に、広く見知らぬ他者との間にも普及させ、社会的な仕組みの一つとして確立させていこうとするのがシェアリングエコノミーの新しさです。本論説は、この新しさをライドシェアリングという分野で検討することに挑戦しています。
 筆者らが行った社会実験は、過疎地・低密度居住地域での相乗り型ライドシェアリングの実装でした。実験地域には、役所や病院、買い物場所等の住民の日常生活に必要な施設が限られていることから住民のODが類似する可能性が高く、同一方向に向かう自動車乗車需要を一つの車にまとめる相乗りが成立しやすい条件がありました。また、既存バス路線は地域の一部のみを通過しており、タクシー会社が存在しないため、ライドシェアリングの実施によって不利益を被る可能性のある事業者がおらず、以前から住民同士で相乗りが行われていた地域でした。この実験は、地域貢献意識の高い住民による運転と車の供給者が多く、無償とされたライドシェアを利用したいと希望する住民が少なかったという興味深い結果を示しました。志高い供給者のただ働きという偏りのある状況では仕組みへの信頼性が根付かず、シェアリングエコノミーの重要な要素である互酬性が阻害されたことが明らかとなりました。
 この実験結果を居住密度が高く競合事業者が存在する都市部に適用するには課題がありますが、シェアリングエコノミーとしてのライドシェアの本質の一部を検証した興味深いものと言えます。また、公共交通による利便性の低い地域における高齢者の移動の問題を解決する可能性も示唆しています。
 本論説は、最後に、ライドシェアリングの課題を運転手の資格、運行の安全と補償、サービス提供者の雇用、公共交通に与える影響、料金設定の6つの観点から考察しています。特に興味深いのは、お互いに初めてあった運転手と利用者が車内という密室で移動する中で犯罪が発生する危険性があるという指摘であり、ライドシェアリングの場合、交通事故以外の危険性が移動の安全の範疇に組み込まれることです。また、自動運転とライドシェアの組み合わせの可能性とそれによる公共交通への一時的な悪影響の懸念についても言及がなされており、技術革新が進む今日において、国際交通安全に関する研究への良い刺激となるものと考えられます。

論文表題:Comparative study on foreign drivers' characteristics using traffic violation and accident statistics in Japan
IATSS RESEARCH Vol.41 No.2 掲載

受賞者:葉 健人、岡本 努、猪井 博登、土井 健司

受賞理由:

 近年の外国人ドライバーの急増を受けて、外国人への運転時の安全施策を講じることが喫緊の課題となっている。本研究は、わが国における国籍別の交通違反および交通事故の統計データを分析することにより、事故につながる外国人の運転行動特性を特定することを目的とする。運転者の国・地域毎の特徴的な違反、事故を解明するために、独立性の検定および特化係数を用いて分析した。さらに、統計モデルにより交通違反と交通事故との因果関係を検証した。分析の結果、道路空間上での優先意識またはプライオリティ(Priority)、スピード感覚(Speed)、標識・標示の正しい理解(Comprehension)という交通文化・慣習を考慮した3つの要素が違反行動に影響を及ぼすことを明らかにした。東アジアドライバーはプライオリティに関する交通違反を行う傾向が強く、一方で北・南米ドライバーはスピードに関わる交通違反、東南アジアドライバーはプライオリティ、標識・標示の理解に関わる交通違反を行う傾向が強い。また、交通事故に関しては、アジアのドライバーは出会い頭、北・南米ドライバーは正面衝突および追突が特徴的に多いことが明らかとなった。以上のように本研究は、PSC(Priority、Speed、Comprehension)に着目した新たなアプローチにより国籍別の交通違反・事故特性を特定するとともに、各国・地域の交通文化や慣習に根差した運転行動特性の差異を考慮した交通安全施策の必要性を提唱するものである。

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