著作部門褒賞

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第39回 平成29年度(2017年)

著作表題:高齢ドライバーの安全心理学

受賞者:松浦 常夫

受賞理由:

 本著は、昨今大きな社会問題となっている高齢ドライバーの運転に関しその心理と行動、事故の特徴と安全対策について、体系的かつ幅広く網羅的に取り上げた一般向けの概説書であります。
 著者自身の研究を含め国内外の研究論文に基づき、論述の根拠が明示されると共に、取り上げている切口が広く、実務者や専門家においても有益な情報が多く書かれています。
 まず、第1章では生活と運転においては、免許のない高齢者よりも健康に自信がある等を中心に活発なライフスタイルを指摘し、続く第2章では病的老化としさまざまな機能低下を論述し、第3章では心理と運転が取り上げられています。特に、第3章においては、運転技能の低下や自信過剰の問題という負の観点だけでなく、補償運転を併せて解説し老年学の視点から幸福な老いにおける運転についても言及しています。第4章の事故では、事故統計から「高齢者は事故に遭うと死にやすい」という高齢者の脆弱性(高齢者の死亡事故と高い事故率)について説明しており、このような指摘はマスコミを含む一般人に対して特に重要であると思われます。第5章の講習と支援ではさまざまな対策についての課題
を丁寧に解説しており、安全対策を考える行政担当者にもかなり参考になると思われます。第6章の運転の引き際では、運転断念の理由だけではなく、その後の活動範囲などにも言及し、プラス面・マイナス面の両方から考えさせられます。高齢者の病的老化等では「個人差」の問題が重要であるが、本著ではやや一般的な記述に留まり、ドライバーの運転特性や生活様式に応じて、どのような対応・対策が可能なのか等までの言及や記述はありません。しかしながら、「高齢者は危ない」とのイメージが拡がり、免許取り消しや免許返納の推進など高齢者全体の運転抑制を図る動きがあるなかで、全体を通して高齢者の運転の問題を高齢期のライフスタイルや幸福度も含めて考えるべきであるとの筆者の主張を感じると共に、超高齢社会を迎える日本において、高齢者の運転は研究の知見も社会的議論も不十分な分野であり、今後の検討に向けて本著は重要な基盤を提供してくれております。
 以上のように、本著の内容は専門家のみならず、社会全体に貴重な知見と方向づけを提供している点で、大いに評価されるものです。

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