論文部門褒賞

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第41回 令和元年度(2019年)

論文表題:Modeling cyclists' facility choice and its application in bike lane usage forecasting
IATSS RESEARCH Vol.42 Issue.2 掲載

受賞者:Nguyen Duc-Nghiem,Nguyen Hoang-Tung,Aya Kojima,Hisashi Kubota

受賞理由:

 自転車専用車線のような新しい走行空間が用意されても、利用者が単純に走行路を変更するとは限りません。むしろ利用者の多くは従前のように歩道上を走行することが考えられます。
 このような予想に対し、本論文では自転車利用者が、歩道、車道の自動車車線部分、車道のいちばん縁石寄り、車道に新たに用意された自転車専用車線のうちの、いずれの空間を選んで走行するのかを予測するモデルを開発しました。さいたま市内の15か所の道路において観測されたデータをもとに構築した二項ロジスティック回帰モデルです。分析手法として特徴的な点のひとつが、近年注目されているベイジアンモデル平均(Bayesian Model Averaging)を用いて、丁寧な検証に基づいて影響力の少ない説明変数を除去し、より単純で扱いやすく、かつ予測性能の高いモデルを選択したことです。
 最終的に得られたモデルでは、調査時に設定した18の変数のうちの9つが選ばれました。9つのうち、車道幅員、自転車のタイプ(競技用自転車あるいはマウンテンバイク)、路側帯の幅員、新たに設置された自転車専用車線の幅員は、車道上の走行の選択に影響を与える変数として、また歩道の有効幅員、バス停の存在、駐停車車両の存在、性別、子供用座席の有無、グループでの自転車利用か否かは、歩道走行の選択に影響を与える変数として、それぞれモデルに含まれることを示しています。特にバス停の存在、歩道の有効幅員、自転車のタイプが大きな影響力を与えていることが明らかになっています。構築されたモデルは、自転車専用車線の導入の事前事後の様子がわかるデータでも検証され、きわめて高い説明力を持っていることが確認されています。これらにより、新たに導入する自転車専用車線がどのように利用されるかを予測することが可能になりました。他都市へ適用する場合には注意が必要ですが、事業効果の事前推定、事業後の事後評価において有用な方法論を提示しています。
 我が国では、平成24年の「安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン」の発出を機に、自転車の走行は原則車道というルールが再認識され、車道空間内への自転車専用車線の設置が全国で精力的に行われていますが、限られた道路空間内で歩行者などに配慮して安全に走行できる自転車空間を用意し、利用してもらうことが重要な課題です。本論文は、この課題に対して現地調査を実施し、そのデータを用いて土木工学、都市工学分野の知見と共に数理統計学の新しい優れた手法を組み込んで実用面で応用可能なモデルを構築し、その有用性を事前事後データを用いて検証しています。快適で安全なモビリティ社会の実現に資する学術的かつ実践的で、また分野横断的なアプローチを用いて優れた成果を出しております。

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