award
第46回 令和6年度(2024年)
論文表題
Analysis of primary-party traffic
accident rates per driver
in Japan from 1995 to 2015:
Do older drivers cause more accidents?
受賞者
Kyoungmin Kim,Keisuke Matsuhashi,Masahiro Ishikawa
受賞理由
現在、日本の交通事故件数は減少傾向にあるものの、高齢化の進展への適切な対処など、時代のニーズに応える交通安全の取り組みが求められています。
特に、高齢ドライバーへの対応が必要とされており、様々な分野で議論が行われています。そのような状況の中で、本研究は日本の交通事故データを免許保有者当たりの事故件数に基づいた事故率を調査するだけでなく、年齢別の時系列事故データを分析することで、当時の交通安全教育や交通安全政策と関連する要因と時代効果についても明らかにすることを試みています。
分析に当たっては、疫学や医学で用いられる BAPC(Bayesian age-period-cohort)分析を援用しており、1) 加齢とともに変化する年齢効果、2) 時間とともに変化する期間効果、3) 出生年に起因する固有の特徴となるコーホート効果の3 つの効果に着目した分析により、新しい視点での交通事故分析に関する研究を行っています。
交通事故の事故率に着目した分析では、これまでのような免許保有者を対象にしたデータ分析では、免許を取得したものの日常的に運転していない人も含まれているため、年齢別に事故率を測定した場合に年齢特性が正確に反映されていないことを明らかにしています。そこで、実際に運転しているドライバー数をもとに評価を行っており、高齢者は運転者数あたりの複数車事故は多いとはいえず、一方で単独車事故が有意に多いことが示されています。
年齢による影響に関する分析では、男性では 20 ~ 29 歳と 80 歳以上で高く、35 ~ 69 歳は低くなっていることを示しています。また、女性では 20~24 歳と 75 歳以上で高く、30 ~ 64 歳は低くなっていました。男性と女性ともに加齢に伴い(男性 80 歳以上、女性 70 歳以上)、事故率が有意に高くなり、運動能力や判断ミスに起因する、相手を巻き込まない事故が起きやすくなることを示しています。
また、期間の効果に関する分析では、2000 年をピークに減少傾向にあり、2015 年では有意に低くなっています。この要因として、基本的な交通安全プログラムやアンチロックブレーキの普及、さらには先進的な電子車両制御システムの普及の効果を挙げています。
以上のように、1) 本研究は疫学や医学で用いられる年齢効果、期間効果、コーホート効果をベイズ推定で識別する方法を援用したこと、2) 免許保有者数から日常的に運転をしていない人数を除外して分析する必要性を明示したこと、3) 運転者数あたりの単独車事故が有意に多い高齢者の年齢層を詳しく分析したことなど、今後の交通事故データの分析に新しい視点を示していることを高く評価いたしました。