褒賞

award

Share
facebookxhatenapocket

第46回 令和6年度(2024年)

業績1

業績題目

シェアサイクルで街をささえ人がそだつ ~札幌市での自転車文化の鼓動~

受賞者

特定非営利活動法人 ポロクル

受賞理由

札幌市のシェアサイクル事業「ポロクル」は、本格的なサービス提供から14年目となります。地方都市でのシェアサイクル事業の継続は、特に採算面で厳しい中、ポロクルは、シェアサイクル関連事業を通じて、札幌市におけるまちづくり・ひとづくりに貢献するべく、地域行政等と連携し地域に根付いた活動を発展させ続けています。
主軸となるシェアサイクル事業は着実に拡大を続けており、現在、電動アシスト機能付自転車約600台を市内約60カ所のポートで稼働させています。 日々の現場運営は、NPO法人ezorockと連携し所属する学生を中心とした若者達「ポロクルクルー」が担っており、1日約220台の車両の再配置をはじめ、バッテリー交換・ポート周辺の清掃等の作業を行っています。
ICT活用によるサービスレベルの向上にも積極的に取り組んでおり、全ての車両にGPSを搭載し、利用範囲の把握とともに車体配置やポート配置の変更や改善を行っています。 また、シェアサイクルシステムや専用アプリの改善を提案し、利用環境を整え、ユーザーの利便性向上を図っています。 そのほか、自転車も含めた公共交通利用を提案する国内初の複合経路検索システム「mixway」の開発連携や、データの学術研究への活用などにも取り組んでいます。
交通安全・環境保全に関する啓発活動も、ポロクルが力を入れているまちづくり・ひとづくりのための取り組みです。 自転車安全に関するキャンペーンやイベントの実施、街頭での呼びかけ、自転車ヘルメット着用促進など、啓発活動を毎年多数実施しています。 積雪地である札幌市は、自転車通学が認められないなど、自転車文化が育ちにくい土壌があります。 そんな中、クルーの活動一つ一つが啓発活動になるという認識のもと、走行時ハンドサイン、歩道での自転車押し歩きなど、地道に模範となる行動を実践しています。 これには、クルーである学生を、自転車安全に寄与する人材として育成するという目的もあります。

    

   

 

防災まちづくりにも一役も担っています。 災害復旧活動時の移動手段として無償で自転車や予備バッテリーを貸し出す協定を札幌市および国土交通省北海道開発局札幌開発建設部と締結し、保有システムの有効活用の体制を整えています。 また、災害情報をユーザーに提供する体制も整えています。
そのほか、放置自転車対策、車体広告の実施、また近年では増加するインバウンドに対する観光利用促進とともに、マナーやルールを徹底するための利用システムの改善にも取り組むほか、札幌市が水素社会を目指す中で水素燃料電池搭載アシスト自転車の独自開発にも取り組んでおり、地域の自転車文化の醸成に寄与しています。
このような継続的で多様な活動により、ポロクルの利用件数は2018年度の約11万回(会員登録1.5万件)から、2024年度には約51万回(会員登録数約9万件)へと大幅に増加しています。 ポロクルのシェアサイクル事業は、積雪のため冬季は5ヶ月間にわたり休業しますが、春の再開時には「ポロクル初日」という風物詩としてメディア報道されており、これは当該事業と関連まちづくり活動が市民に溶け込んでいる証左といえます。
ポロクルが様々なシェアサイクル関連事業を通じて地域の交通システムとして成長していくプロセスは、今後、地域交通に関する一連のまちづくり活動が、地方のまちと人を支えはぐくむ社会システムへ昇華していく好例であり、国際交通安全学会が目指す理想的な交通社会の実現に寄与する事業として高く評価いたしました。

業績2

業績題目

官民共創と地方創生テレワークが最先端の地域モビリティを実現する

受賞者

塩尻市

受賞理由

塩尻市は長野県のほぼ中央に位置しています。 中心となる JR 塩尻駅は中央本線を東西に分ける境界で、北方は松本・長野へとつながるため、まさに交通の要衝であり、古くから中山道の宿場町として栄えてきました。 塩尻市の特徴として、多くの地方都市が人口減少に悩まされているなか、人口が約 65,000 人から減少することなく維持されていることがあげられます。 人口減少問題への対応が喫緊の課題となる前の余力あるときに、交通にかかる先端企業の集積による先駆的な取り組みを行おうと、現在、塩尻市交通 DX として 20 社以上の大企業や関係省庁を含む産学官民の共創体制が構築されています。
この体制のもと、2020 年より自動運転の実証を始めています。 2020 年度はタクシー車両と小型バスによるレベル2の実証でしたが、翌 2021年度にはインフラ連携の開始、2022 年度は国土交通省の自動運転実証調査事業に採択され、信号機連携や遠隔監視のシステム構築など、着実に自動運転の実現可能性を高めてきました。 2023 年度は EVバスを購入したことで、長期間の走行テストが可能となりました。 これは、実証実験中の自動運転車両への乗車のみならず、普段から市民が自動運転車両を目にする機会が増加し、社会受容性の更なる向上をもたらしました。 これまでの実証実験によって、2024年度には10月31日に道路運送車両法に基づく自動運転車両の認可、2025 年1月9日には道路交通法に基づく特定自動運行の許可が得られ、自動運転レベル4の社会実装が可能となっています。 EV バスの最高速度は 35km/h であるため、自動運転レベル4の導入にあたり、道路空間・環境の変化等による非常時への対応など、時速20km/h 未満で走行するグリーンスローモビリティを用いた自動運転とは異なる多くの調査確認事項が必要となります。 自治体職員数の限られた塩尻市にて、それらの問題を解決できたのは特筆すべき特長です。 その後、1月 23 日より3週間にわたるレベル4の実証運行を行っています。

    

   

 

加えて、公共交通の取り組み"MaaS"として、AI 活用型オンデマンドバスも運行しています。 これは、スマートフォンアプリなどで利用日や乗降場所を指定すると、目的地まで移動してくれる新しい乗合公共交通サービスです。 塩尻市内に 381 箇所のバス停(ミーティングポイント)が設定されているため、高い利便性を享受できます。 コミュニティバスに変わるサービスとして運行するため、両者に競合がないことも特徴です。 2020 年の運行開始から5年間で延べ 13 万人以上の利用があり、AI 活用型オンデマンドバスの運行によって、市民の潜在的なモビリティの需要を掘り起こすという結果が見出されています。 今後は、このニーズをふまえ、路線によっては再び定期運行バスへ戻す可能性が示唆されました。
これら交通サービスにおいて、それらを支える KADO は塩尻市における斬新な取り組みです。 KADO は「働きたい誰もが、働ける機会をつくる」ことを目的に設置された自営型テレワークシステムです。 2010 年に開始されており、現在は約 800名の登録があります。 先述した自動運転において、実際に自動運転車両が走行するためには、車両位置の特定のため、3次元の道路地図が必要となります。 その作成には多くの人的作業が必要となりますが、その作業はKADOを通じて行われました。 また、AI 活用型オンデマンドバスの運行においては、予約時にスマートフォンに不慣れな方は電話予約となりますが、その際のオペレーターは KADO のメンバーが従事しています。 その結果、費用は外部の委託先ではなくテレワーカーへ支出されるため、業務のみならず費用の地産地消が成立しています。 こうした KADO の取り組みは、多くの地方都市にも適用でき、これからの自治体運営において大きな変革をもたらすものと思われます。
こうした塩尻市における様々な取り組みは、先駆的でかつ他の地方都市のモデルとなり得るものと期待されることを高く評価いたしました。

一覧へ戻る