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第47回 令和7年度(2025年)

著作1

著作題目

技術システムの継承と選択:国有鉄道における改軌論争と新幹線開発

著者

菊地 宏樹

受賞理由

交通、通信、電力など様々な技術システムは、どのように過去から未来へと進化していくのか。技術システムの限界は何によって画され、何によって乗り越えられていくのか。
本書は、このような問題意識のもとに、技術システムの進化のメカニズムの解明を課題として、技術そのものの内在的な論理、限界だけでなく、技術システムに関与する社会・組織という社会的主体のあり方が、技術システムの進化にどのような影響を及ぼすのかを、「技術フレーム」という分析視角で解き明かすことを目的としています。その具体的検証の場の中心にあるのは、日本における高速鉄道の技術システム、すなわち軌道広軌化による新幹線の登場とスピードアップです。

第1章においては、「目的、カギとなる問題、問題解決のための戦略、解が満たすべき必要条件」という技術フレームについて、その枠組みを提示した欧米の研究知見に基づき、工業素材としてセルロイドに代わって登場したベークライトが、どのようなメカニズムで登場し一般化したのかを中心に紹介・検討しています。技術フレームの形成だけでなく、異なる社会的主体によって複数提示される技術フレームが対立する場合に、どのようなメカニズムが働くのか明らかにすることを課題として設定しています。

第3章においては、大正期を中心に、鉄道広軌化の実現をめぐる論争が、後藤新平を中心とした広軌派と、広軌化よりも狭軌のままでの地方への利益均霑を重視した政友会の技術フレームのせめぎあいと後者が勝利する過程が、鮮やかに描き出されています。第4章においては、後の新幹線計画にも影響を与えた昭和初期の弾丸列車計画の策定プロセスと、そこに関与したアクターが計画の技術面にどのような影響を与えたのかが分析され、軍部と鉄道幹線調査会の対立と、その技術フレームの「合流」を指摘します。

戦後の新幹線計画と広軌の実現(第5章)においては、東海道線の輸送力増強という目的をある程度共有しつつも、カギとなる問題や戦略を異にする、国鉄本社理事会、十河信二総裁、鉄道技術研究所の技術フレームの競合と融合が描かれます。

速度をめぐる新幹線の進化(第6章、第7章)は、本書の事例分析の中心部分であり、開業以来20年以上にわたり、速度向上がなされなかった新幹線が、なぜ、国鉄最後のダイヤ改正(1986年11月1日)で速度向上を達成したのか、新幹線の速度の技術的限界、騒音を中心とする環境問題、そして、労働組合と経営側との事前協議・現場協議等による制約など、それぞれに関わるアクターの技術フレームの推移という道具立てを中心に、当事者へのインタビューも駆使して、解き明かされます。

終章においては、事例分析を踏まえて、複数の技術フレームの対立が、どのように解消されるのかについて、対立する側が組織内部なのか外部なのか、対立する側を取り込むのか無力化するのかという軸で提示され、これからの技術の進化をどうコントロールするのかについてのインプリケーションを示して結んでいます。本著作全体を通じて、図表も適宜に交えた平明な叙述は、新幹線以外の交通問題に取り組む実務家や一般読者にとっても興味深いものでありましょう。

以上、主として経営学の見地から、新幹線という現在も基幹的な交通分野の事例研究を展開した本著作は、技術史、鉄道史、システム開発など、多様な分野に大きな刺激となる学際的な研究として、また、現在および将来の交通問題の解決にとっても示唆を与えるものです。これらの点から、本著作は国際交通安全学会賞著作部門に相応しいものと判断いたしました。

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