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第1回IATSS国際フォーラム(GIFTS)

11月28日(土)に第1回 GLOBAL INTERACTIVE FORUM ON TRAFFIC & SAFETY シンポジウムが無事に終了いたしました。多くの皆さまにお越しいただき、誠にありがとうございました。当日の内容は順次HPにてご報告いたします。
今後ともご支援のほどよろしくお願い申し上げます。

開催概要

会議名: 第1回IATSS国際フォーラム(GIFTS)
会場: 国連大学 ウ・タント国際会議場(3F)
〒150-8925 東京都渋谷区神宮前5-53-70
会期: 2015年11月28日(土)
主催者: 公益財団法人 国際交通安全学会

開会挨拶

武内和彦
IATSS会長 / 東京大学国際高等研究所(UTIAS)サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)機構長・教授

武内教授は参加者全員に向けて挨拶の言葉を述べ、衷心からの謝意を表した後、技術や交通安全の劇的な変化についてとCO2排出量や社会的格差などの障害がもたらす影響について強く語った。また、実際的な取り組みが必要である点と、IATSSが様々な国の組織と持続可能な関係を築くために「超学際的」なアプローチで目標を追求している点を強く訴えた。さらに、ここ2日間にわたり開催された会員対象のワークショップについて概要を手短に紹介し、開会の挨拶を締めくくった。

趣旨説明

森本章倫
IATSS会員・国際フォーラム実行委員会委員長 / 早稲田大学理工学術院教授

森本教授はシンポジウムの議題を紹介し、モビリティに関して様々な国の間に共通した問題が存在する点に触れるとともに、全員が議論に参加して対話がなされることを希望する旨表明した。

基調講演

「世界的視野から見た道路交通安全の将来」
Fred Wegman

デルフト工科大学名誉教授(オランダ)

Wegman教授は交通安全データの解析プロセスについて説明し、初心者や高齢運転者などの話題に触れて、特に若年運転者や高齢運転者の間でリスクがある点を指摘した。同氏からは従来の分野で効果的な介入策も提示され、その一環として、人間の行動、法律や取締まりキャンペーン、インフラ、車両、交通事故後の対応、新しい開発において効果的な介入策も示された。

 

Wegman教授は、いくつかの自動車先進国(高所得国)においては、ここ数十年にわたって、効果的な介入策の結果、事故死者数の削減に成功していると示唆した。しかし、景気と交通安全との関連に関する近年のOECD/ITF報告書内容にも触れ、経済成長が鈍化すれば交通安全が改善され、景気の低迷が交通事故死削減の約3分の2に寄与していると語った。しかし、世界での道路交通負傷が大きな問題である点に変わりはなく、交通事故により全世界で年間125万人が死亡している。非致命的な負傷者は最多で5千万人に上り、安全対策に負傷防止策を組み込む価値があるというのが同氏の主張であった。

 

Wegman教授は、「交通安全のための行動の10年」にも触れ、5〜10年という期間内で全世界の死亡者数を半減させ、約500万人の命を救うという目標に言及した。さらに、持続可能な開発目標についても論じ、交通安全は単独の優先課題ではなく、健康や都市に関する目標にも組み込まれており、そのことが第1歩を踏み出す良いきっかけになるとの考えを強く主張した。同氏は、また実施中の方策の質を改善することを強く訴えるとともに、高所得国と低所得国間で交通安全への取り組みに差がある点を指摘し、高所得国において50年間にわたり交通安全政策を実施して得られた結果の例を紹介した。

 

Wegman教授からは、今日の道路交通が本質的に危険であることには変わりがないとの言及があり、今日の道路網は安全を念頭に置いて設計されてはおらず、交通事故防止に際しては、道路利用者の正しい行動にほぼ全面的に頼っている点などの根本的な交通安全問題に関する指摘があった。道路網は、ヒューマンエラーを想定し、それに対応するよう設計すべきで、他の輸送部門ではこの概念が受け入れられ、実施されている。

 

次に、同氏は、道路利用者・車両・道路間の相互作用を考慮に入れるなどの安全システムの設計にも言及した。さらに、より一体的・総合的なアプローチを取るべきであるといった提言を行うとともに、規制機関、道路当局、自動車メーカー、警察当局などの組織が個別に単独で活動を行っている点を指摘した。また、飲酒運転を防止したり、シートベルト着用を促したりするインターロックや車両制御支援などの技術開発についても言及した。

 

Wegman教授は、さらに、次のステップについても論じた。高所得国は安全システムというアプローチを取る方向に動くであろうことや、この安全システムによって交通環境が著しく安全になり、人間の行動に対処できるようになるだろうと述べた。また、新技術が交通安全の改善にさらに貢献することへの期待とともに、新技術が効果を発揮するためには強いリーダーシップとアクティブな公共セクターが必要であると述べた。中低所得国については、政治の関心(国・地域レベル)、交通安全対策やアクションプラン、強い交通安全コミュニティ、主要な利害関係者の関与、交通安全研究能力、NGOなどによる支援活動、活動的で効果的な国際コミュニティの重要性を強調した。

道路交通の安全とその特性に道路改良が及ぼした影響
Francis John Gichaga

ナイロビ大学土木工学教授(ケニア)

Gichaga教授は交通事故の因果関係に文化的価値が及ぼす影響について述べたほか、ケニアのナイロビ・ティカ・ハイウェイで行われている改良工事に関する背景情報を提供するとともに、人間の行動などの問題にも言及した。同氏は、また現在大規模な修復段階にある北部回廊 (Nothern Corridor) の状況にも触れた。北部回廊道路整備プロジェクトの交通安全要素に関するモニタリングと評価には、事故データの収集と解析、適切な分野への提言が含まれるとのことであった。

 

Gichaga教授は、北部回廊での事故データ情報を紹介し、道路の形状設計、道路安全障壁、バス停車帯を改善することなどの提言を行った。運転行動に関しては、運転者訓練を検討すべきで、長距離トラックのドライバーに対しては強制的な休憩を設けるべきである。車両のメンテナンスに関しては、定期的なチェックとメンテナンスを実施すべき、厳格な整備プログラムを設けるべきとの提言があった。また、横断歩道設置の必要性や、二輪車運転者向けの訓練プログラムの設置、歩行者に対する基本的な交通安全教育、政府が道路利用者に対して交通安全規則の厳守を促し、取り締まる必要性があると述べた。

パネルディスカッション

司会挨拶

林良嗣
IATSS評議員 / 名古屋大学大学院環境学研究科附属持続的共発展教育研究センター長・教授(工学博士) / 世界交通学会会長 / ローマクラブ正会員

林教授はパネルディスカッションの開会の挨拶を行い、「交通安全の未来」と「道路整備が交通安全に及ぼす影響」というテーマに言及した。次に、パネルディスカッションの議題を手短に提示し、総合的な社会福祉、持続可能な交通と空間利用、インフラなどの主要な課題を指摘した。

リーディングプレゼンテーション

「都市交通政策の進化:変わりゆく『交通文化』」
Peter Malcolm Jones

IATSS海外名誉顧問 / ロンドン大学交通研究センター所長、交通とサステイナブル・デベロップメント分野教授(イギリス)

Jones教授は、多くの都市で交通政策の歴史的な進化が見られる点、さらには、この進化には、政策の優先順位変化や、都市において交通が果たす役割の文化的変化が関連している点を指摘した。都市交通政策の発展サイクルを説明する中で、同氏は、多くの場合、都市では、まず車の所有率が急増するが、やがて、市民は、もっと「自分の足を使っての移動」を重視するようになるので、結果的に特に公共交通が改善され、発展サイクルの最後には、活動や生活が重視されるようになるため、効率的で持続可能な交通手段などに重点が置かれるようになり、全体的に自動車の利用が減ると述べた。さらに、Jones教授は、ロンドン、パリ、ウィーンなどの地域でこの種の増加が見られたことを示すデータを紹介した。

 

次に、Jones教授は、ポートランドやソウルなどでの高速道路の撤去例に触れるとともに、ロンドンが道路タイプを9種類に分類している点について概説し、これらは、当該都市が、先に述べた3段階から成るサイクルを経た結果であると述べた。次に、ヒューストンなどの一部の都市がなぜ第1段階に留まっているのか質問を投げかけた。考え方や文化は、時間とともに変容するため、道路や駐車場に予算を配分するか、それとも、持続可能な移動に予算を配分するかといった点や、適切な資金調達や統治構造がどのようなものかといった点、さらにはどういう市民が模範を遵守していることになるのかといった点がそれに影響されると主張した。

 

Jones教授は、また、特に市民が悪影響に直面したときに変化が起こり得ること、変化するには費用がかかること、都市によっては、公共交通機関・歩行者・自転車の交通量があまりにも少ない場合や、土地利用があまりにも分散している場合などは、車中心のパターンに陥る可能性があることを強調した。最後に、第4段階があるのか問うてみることを提案した。

ショートプレゼンテーションとコメント

「インドネシアにおける公共交通開発と交通事故の抑止」
Sutanto Soehodho

IATSS海外招待会員 / ジャカルタ首都特別州貿易産業交通担当副知事 / インドネシア大学交通工学教授(インドネシア)

Soehondho教授は、インドネシアでの交通事故の多さを強調し、死亡者数、重傷者数、軽傷者数、物的損失件数を紹介した。さらに、インドネシアの交通事故の傾向を説明し、その中で、オートバイ利用の爆発的増加、公共交通サービスの脆弱さ、陸上輸送インフラの拡張ペースの遅さ、これらの分野での価格と財源の影響を重点的に指摘した。

 

次に、公共交通システムの整備、陸上輸送インフラの整備、交通と輸送需要の管理など、交通事故を防止するためのアプローチが提示された。さらに、トランスジャカルタ(バス高速輸送)やレバブルス(大量高速輸送回廊)など、ジャカルタにおける様々な交通プロジェクトに関する指摘があった。

「モータリゼーションの発展類型と次世代都市モビリティシステム」
太田勝敏

IATSS理事 / 東京大学名誉教授

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太田教授は、高齢化する人口や交通安全政策の変化が及ぼす影響について論じた。同氏は、政策の変化を実現するきっかけや、全利害関係者を動員し一丸となって行動を起こすきっかけを探る必要性を訴えた。次に、太田教授より、交通文化の違いに関する指摘、公共交通に対する日本政府の責任に関する説明があった。同氏は、Uber(ウーバー)などの新技術の開発にも触れたほか、モビリティ格差をなくすことが重要であると強く訴えた。

「都市の自動車利用が限界に達すると、すべての世論が脱自動車社会へと向かうのか」
Martin E.H. Lee-Gosselin

IATSS海外名誉顧問 / ラヴァル大学大学院名誉教授(カナダ) / インペリアル・カレッジ・ロンドン交通研究センター客員教授(イギリス)

Lee-Gosselin教授は、都市におけるモビリティの進化と車に対する国民感情という根本的テーマについて論じ、国民感情には、地域に根付いた多様な交通文化の一側面として影響力があると指摘した。しかし、大方の予想とは裏腹に、態度の変容がそのまま行動の変容に結びつくとは限らない点も指摘した。

 

また、情報通信技術が急速に普及しており、ICTと融合した交通文化の観点および当該文化において国民の意識が果たす役割の観点から考えてみるべきときに来ているとの指摘もあった。

 

次に、第3のポイントとして、運賃が今よりもはるかに高くなり、手頃でなくなった場合の国民感情の急劇な変化に対してICTと融合した交通文化は脆弱であるという点を訴え、今後10年のうちに移動がはるかに困難で費用のかかるものとなる可能性が非常に高いと強調した。

●中村文彦(IATSS会員 / 横浜国立大学理事・副学長)がSoehodho教授のプレゼンテーションに関して手短にコメントを述べ、その中で、交通手段にどのような変化が起こるであろうか、それがどのように起こるであろうか、二輪車や補助的交通機関の役割とはどういうものか、若年運転者をどのように教育し規律を身に着けさせるかという点に言及した。

●土井健司(IATSS会員 / 大阪大学大学院工学研究科地球総合工学専攻教授)が太田教授によるプレゼンテーションに関してコメントを述べ、その中で、各国が本当に同じ目標を目指しているのか疑問を投げかけた。さらに、未来のモビリティが目指すべき目標を提示した。

●二村真理子(IATSS会員 / 東京女子大学経済学専攻教授)がLee-Gosselin教授によるプレゼンテーションに関してコメントを述べ、その中で、Joint ICT-Transport Culture (ICTと融合した交通文化)とは何か、南側諸国からどのようなことを学ぶことができるか、車中心の社会にICTをどのように導入できるかを質問した。

ディスカッション

司会: 林良嗣
パネリスト: Fred Wegman, Francis John Gichaga, Peter Malcolm Jones,
Martin E.H. Lee-Gosselin, Sutanto Soehodho, 太田勝敏
中村文彦、土井健司、二村真理子

林教授が、これまで発表されたプレゼンテーションのテーマを手短に要約した。Soehodho教授より、政府が公共交通への移行を加速させているようだとの発言があり、インフラは、すべて政府が整備し、他の分野は、民間セクターが出資することになるだろうと述べた。林教授がバンコクでJICAが進める開発プロジェクトの1つに言及し、道路と鉄道間で投資の優先順位が変わった点に触れた。文化の変容、民間セクターの役割、土地利用の問題など様々な問題を浮き彫りにするのにプレゼンテーションが役立ったとJones教授より発言があった。

 

次に、林教授より、近い将来、ケニアは、経済成長を遂げる可能性が非常に高いので、バンコクやジャカルタの事例を研究することに関心を寄せるかもしれないとの指摘があった。Gichaga教授が文化的価値とそれが自動車保有率に及ぼす影響についてコメントし、ケニアの民営の公共ミニバスが最近導入された点と二輪車使用のリスクにも言及した。同氏は、ICTのさらなる進展を希望すると表明したが、それが本格的に利用できるようになるまでには時間を要するかもしれないとの懸念も表明した。林教授が、一体誰がミニバスを運転しているのかという点とドライバー教育の実施という点について問題提起した。中村博士が計画を立て、常に交通安全が優先されるよう動向を監視することの重要性を強く訴えた。土井教授からも、インフラ整備には、ビジョンに基づいたアプローチをとることが最も実際的だとの強い指摘があった。

 

林教授が国民の健康をどのように増進するかという質問を投げかけた。太田教授より、最新の技術を利用すべきであるが、政策、ビジョン、コスト、財源、感情といった様々なファクターが存在するとのコメントがあった。同氏は、各国がそれぞれの既存の文化に合った独自の解決法を見つけるべきだと述べた。Lee-Gosselin博士より、サブカルチャーという概念についてと、CO2排出量を監視する手段としてICTを使用できるという点についての説明があった。また、二村教授より、ICTがどのように交通行動に深く関与しているか言及があった。

 

次に、林教授が交通安全と安全システムの導入という問題を提起した。Wegman教授より、社会における現在の安全レベルは満足いくものではないので、より明確にかつ透明性が確保される形で、意思決定プロセスに安全が組み込まれることが重要であると述べた。さらに、意思決定がなされる前に、何らかの安全基準が満たされるべきであると述べた。

 

ここで、林教授が聴衆からコメントを求めた。Nicola Christie博士(ロンドン大学交通研究所所長)が公平性に関心がある旨を表明し、何らかの価値観によって低所得層の市民が都市中心部から追いやられていること、さらに政策を実施するときにはこの種の問題を考慮すべきであることを指摘した。Marianne J.W.A. Vanderschuren博士(ケープタウン大学土木工学部交通研究センター)からは、ケニアの回廊にとってBRTが正しい選択なのだろうかとの指摘があった。Pongrid Klungboonkrong博士(コンケン大学工学部、SIRDC総務担当副所長、ATRANS理事および研究委員会委員長)が都市化と交通安全とを関連付けてみることを提案し、土地利用の変化、公共交通の導入、新技術の開発が実現することを希望すると述べた。

 

林教授より、意識が非常に重要であり、社会経済の急劇な変化、大規模災害、不慮の事故などの外力や外からの影響を受けたとき、柔軟に立ち直って前向きに前進するためには、しなやかさと持続可能性が不可欠であるとのコメントがあり、ディスカッションを締めくくった。

 

閉会挨拶

峯川尚
IATSS副会長 / 本田技研工業株式会社専務執行役員

峯川氏はフォーラム参加者全員に謝意の表し、交通渋滞の緩和、全世界の交通専門家との連携強化などの全員に課された使命に言及した後、GIFTSの閉会を宣言した。

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